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続・名探偵たちの住んでいる世界

前回、一人の作家さんが創作した名探偵たちの共演と共演していなくても同じ世界にいるという事について書きました。
今回は、二人の作家が創作した二人の名探偵を第三者ではなく
創作した二人のうちの一人が共演させるという夢の共演(クロスオーバー)について書きます。
(作家Aのシリーズに作家Bの名探偵がでてくるという事です。)

さて、名探偵のクロスオーバーは、パロディやパスティッシュではいろいろあります。
そして正規のシリーズでありながら他の作家さんが創作した名探偵を登場させている作品は、
実は少ないようで意外とあったりするんです。

まず、有名な作品ではアルセーヌ・ルパンシリーズ(モーリス・ルブラン著)のホームズです。
この作品は、ルパンシリーズでありながらシャーロック・ホームズが出てきます。
但し、ルパンを優位に書きすぎてホームズはあまり活躍しませんというか
本来のホームズとはちょっと違っています。ちなみにこの作品は、クレームがついたために
「シャーロック・ホームズ」(Sherlock Holmes)の名前を
「ハーロック・ショルメス」(Herlock Sholmes)という名前に変えたりしています。

他にもエラリー・クィーンシリーズ(エラリー・クィーン著)にも
ホームズは登場しています。「恐怖の研究」(ハヤカワ・ミステリ文庫)です。
ただし、ここでは時代と場所が違うので
(ホームズは19世紀末ヴィクトリア王朝時代のロンドン、エラリーは20世紀のアメリカ)、
ちょっと面白い登場の仕方をしています。
題材としては、ホームズの時代に起きた切り裂きジャック事件を扱っています。
ホームズが切り裂きジャック事件の解決に関わっていたという原稿(ご存知ワトスンが書いた原稿です。)を
エラリーが読むという形式になっています。
正確には共演してはいないのですが
ホームズは切り裂きジャック事件の謎を追いかけ、エラリーは原稿の謎を追いかけ
という具合に交互に話は進んで行きます。そして最後は・・・。
この作品は、映画のノベライゼーションであり当初ディクスンカーが作品化するはずが
諸事情によりできなくなりエラリー・クィーンが作品化したもので
ホームズ部分(ワトスンの原稿)がアメリカ英語で書かれている為に
あまり評判はよくありませんでした。あっ、でも安心してください。
日本語で読む限りでは、そんなの気になりません。

他に面白い登場の仕方として、ホームズの名前がブラウン神父のシリーズに
雑誌に載っている作品として出てきます。
こう見てくるとホームズは名探偵の代名詞という事もあって
いろいろなシリーズに登場させられています。
では他の名探偵ではないか見てみましょう。

実は、ルパンシリーズにホームズ以外の名探偵が登場しているんです。
「奇岩城」(アルセーヌ・ルパン全集14『奇岩城』偕成社)という作品に
イジドール・ボートルレことジョゼフ・ルールタビーユ
(ガストン・ルルー著の『黄色い部屋の謎』『黒衣夫人の香り』他に出てくる少年記者の名探偵です。)
が出てきています。他にもルパンシリーズにはファントマらしき人物も出てきています。

次に日本国内の作品を見てみます。
これも有名な作品かもしれませんが明智小五郎シリーズ(江戸川乱歩・著)にアルセーヌ・ルパンが出てきます。
わざわざフランスから日本までルパンが来ているんです。恐るべしルパンですね。
ただし、この作品の中でルパンは、普段しないようなことをしているので本当のルパンかどうか
ちょっと疑わしいですね。

他に国内の作品では、「遠きに目ありて」(天藤真・著)の主人公として「青白い季節」(仁木悦子・著)に
脇役として登場したキャラクターが出てきています。
これは天藤真さんが自分の作品を書くときに「主人公のイメージが浮かばないで苦慮していた最中に、
ふと書棚の『青白い季節』がひらめいて『あッ、ここにいたじゃないか』と気がついた」(「遠きに目ありて」あとがき より)との事で自分のキャラクターとして使用したいと仁木悦子さんに申し出て書いたそうです。
まぁ、これはちょっと違いましたね。

さて、やはり共演している名探偵では、ホームズが一番多いですね。
でも、これはホームズ・シリーズにいろいろな名探偵が出てくるのではなく
ホームズがいろいろな作品に出演しているんです。
では、最も多くいろいろな名探偵が出てくる作品は、何だと思いますか?

有名なシリーズ作品ですが推理小説ではないのです。
その作品は、「ナポレオン・ソロ U.N.C.L.E.から来た男」です。
ロバート・ボーン演じるナポレオン・ソロとデビット・マッカラム演じるイリヤ・クリヤーキンが出てくるTV番組
(内容は、スパイ物で諜報部のU.N.C.L.E.と悪の組織スラッシュとの対決を描いています。)のノベライゼーションです。
例えば、「ナポレオン・ソロ14/犯罪王レインボー」(ハヤカワ・ポケットミステリ D.マクダニエル著)に
応用心理学、生化学、生物物理学……催眠術にひいでた中国人の暗黒街の首領がでてきます。
これは、フー・マン・チューですね。
そしてヴィクトリア時代かエドワード時代のレディの生きた見本みたいなジェーン叔母さん、
背は低いが、まる顔のよく肥えた男で、……無邪気な微笑をたたえているジョン神父がでてきます。
二人は犯罪学に興味があってソロを助けます。
それぞれ、ミス・マープル、ブラウン神父ですね。
他に「ナポレオン・ソロ5/人類抹殺計画」(ハヤカワ・ポケットミステリ D.マクダニエル著)には、
悪の組織スラッシュはもともと「ある教授が……数学と犯罪の分野において天才といってもいいほどの
才能を発揮して……1891年に殺され」たときに残された犯罪組織の末裔だったとなっています。
そしてソロとイリヤが入っている犯罪学の会の指導者は、「百歳くらい……ずっと以前に退職して、
サセックスの小さな農園でミツバチを飼っている……ウィリアム・エスコット」となっています。
これは、それぞれモリアーティ教授とホームズのことです。
と言った具合にこの作品には名探偵たちがちゃんと正義の組織を助けるという役割で登場しているのです。

最後は、ちょっと話しがずれましたけど、これらの作品以外にも名探偵の共演というのはいくつもあります。
名前を伏せているけれど、ひょっとしてこの人は、あの名探偵か?という事もあります。
登場の仕方で、小説上の創作されたキャラクターになったり同じ世界の生きた住人になったりいろいろです。
みなさんもぜひ夢の共演をしている作品をさがしてみてください。
いろいろな作品に他シリーズの名探偵たちが隠れているかもしれませんよ。
ではでは。





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